暖かくなってきて思い出だすことがある。
一昨年のこの時期、むし暑く感じたある雨の日のこと、
雨上がりの夜道で何か柔らかいものを踏んでしまった。
犬糞ではあるまいか?!と一瞬ヒヤリとしたがそうではなかった。
それは握りこぶし大のカエルだった。
幸い私の反射反応が早かったのか、カエルにはさほど体重が乗らなかったとみえ、
無言のままではあったが彼はノソノソと道路脇の雑草に姿を消した。
さて残された私の方は非常に気持ちの悪い感覚に苛まれていた。
足の感触もさることながら、カエルの姿自体を気持ち悪く感じてしまっていたのだ。
その湿った雑草の中にはカエルのみならず、当然ヘビやトカゲもいるだろう。
当たり前のその事実が凄く怖くなってしまい、ブルブルっと震えが出るほどであった。
気を取り直して歩き始め、ふと下を向くと雨に濡れた路面をミミズが這っていた。
ことここに至るとミミズの動きすら堪らなく気持ち悪く、ちょっとした恐怖すら感じてしまった。
私の場合、年々こうなっていく。
こうなっていくというのはつまり、動物を怖がってしまうということである。
子供の頃はこんな事はなかった。
カエルを握りしめて遊び回っていたし、イモリやヤモリも平気で捕まえた。
田舎育ちというわけではないが、家の周りにはまだ田んぼや畑がたくさんあった。
学校帰りに用水路の脇にアオダイショウがのたうちまわっていた日には、
素手で掴んでブンブン振り回していた。今考えるとちょっとした虐待にも感じられ、それはそれで反省すべきな程だった。
釣りに行けばミミズもゴカイも指でちぎった。
ハトもニワトリもカラスも何も怖くなかったから、追っかけ回して真似をした。
近所の河原に生息していた野良犬どもと堂々と喧嘩もしていた。
しかし今は全く駄目だ。カエルも虫も触ることすら出来ない。
ヘビだのトカゲだのに至っては、動物園の爬虫類館に入場することも憚られる始末だ。
カラスをはじめ鳥たちとの距離もかなり遠くなった。真似して遊ぶ気にもなれない。
このように、大人になり生き物たちと何となく疎遠になってしまった私ではあるが、
ただ1種類だけ、この流れに逆行する動物がいる。それが猫である。
猫は子ども時代の私にとって唯一の怖い動物であった。
近所の飼い猫も野良猫も触ることが出来なかった。友達が可愛がっていても私はそれを遠くから眺めていた。猫の目が薄気味悪く感じたし、猫嫌いの母から化け猫伝説を刷り込まれたこともあり猫には滅法弱かった。
ところがそんな私は今現在猫を飼っている。猫を可愛がっている。
猫と一緒に楽しく暮らすためにどういう空間が良いかを考えている。
猫の面白おかしい動きを少し研究して、建築家として何か出来ないかと模索している。
その結果、猫と建築のあるべき姿を多くの人と考え共有しようと、
「猫と建築社」なるヒネリのない名前のプロジェクトを立ち上げてみた。
まだまだ発展途上だが、猫に興味のある方はホームページをのぞいてみて欲しい。
さて今後も私と多くの生き物との距離はますます広がっていくのだろうが、
猫と犬だけは私のそばから離れないでいて欲しいと切に願うものである。